分子細胞修飾学 斉藤研究室

研究内容

タンパク質の翻訳後修飾

 DNAの遺伝情報をもとに合成されるアミノ酸分子のポリマー「タンパク質(protein)」は、細胞内では折り紙のように規則的に折りたたまれて活性をもった機能的なタンパク質に成熟します。一方、高等動植物の細胞内では、成熟したタンパク質がリン酸基、メチル基、アセチル基といった化学基、あるいはユビキチンやSUMOといったタンパク質などにより「修飾(modification)」を受けることも知られています。こうした修飾は、タンパク質を細胞内で適切な場所に局在化させたり、適当量に分配したり、不必要なタンパク質を分解したり、あるいは酵素活性を変化させる上で重要な仕組みであり、タンパク質を介した細胞内シグナル伝達制御の骨子と考えられます。
タンパク質の翻訳後修飾

 この数年の間における翻訳後修飾に関する研究の進展は目覚ましいものがあります。エピジェネティクスという研究分野が近年、多くの生命科学に関する研究分野と関わりを持ちながら横断的に急速な広がりをみせていますが、翻訳後修飾の研究はエピジェネティックな現象を理解する上で重要です。また、翻訳後修飾に関わる修飾酵素に対する低分子化合物は、薬としても有効に働くことが分かってきています。このようなことから、翻訳後修飾に関する研究は、先端的な国際学会の多くで関連するテーマが定期的に取り上げられ、生命科学の研究分野における枢要課題として世界的に注目されています。しかしながら、翻訳後修飾は種類が多く、異なる翻訳後修飾どうしの連携や拮抗による複雑なシグナル伝達回路を形成してしていることから、生命活動における修飾システムの全容の理解は十分とは言えません。そして、こうした翻訳後修飾の基礎的な制御基盤の理解が不十分なために、翻訳後修飾システムの操作とその操作技術を用いた医薬農工といった生命科学の応用分野への活用もまだまだ十分といえません。

分子と細胞機能の修飾 pdf
エピジェネティクスについて pdf

SUMO修飾

SUMO修飾

 斉藤研究室では生体分子の修飾の中で、とりわけクロマチンや核膜の機能制御に関わるユビキチン様タンパク質SUMO(スモ)とSUMOによる分子修飾、および SUMO修飾にリンクする修飾(ユビキチン化、アセチル化やメチル化)に着目して研究を進めています。

 SUMOはSmall Ubiquitin-related Modifierの略で、ユビキチンと構造が良く似た約100アミノ酸残基からなる低分子量タンパク質です。SUMOは酵母からヒト、動物および植物に至る多くの生物種で観察されるタンパク質で、1990年代後半に発見された比較的新しい分子修飾の一つです。E1、E2、E3酵素が連携してSUMOのC末端のGly残基を標的タンパク質の特定のLys残基の側鎖とイソペプチド結合させます。SUMOが1分子架橋するものSUMO化修飾のほか、SUMO分子同士が重合しポリマー鎖を形成するポリ SUMO化修飾が知られています。また、この反応は可逆的で、SUMOと標的タンパク質の結合をはずす酵素も知られ、SUMO修飾の作用を理解するためには、SUMO化と脱SUMO化のバランスを理解することが重要です。
SUMO修飾
 SUMO修飾には、SUMOが1分子架橋するモノSUMO化修飾のほか、SUMO分子同士が重合しポリマー鎖を形成するポリ SUMO化修飾が知られています。近年のSUMO化基質のプロテオミクスを中心とした細胞生化学的解析や、遺伝学的な手法を用いた研究から、モノSUMO化およびポリSUMO化修飾が細胞増殖や分化の制御や、神経細胞における細胞内封入体の形成といった広範囲にわたる生命現象と密接に関わることが分かってきました。SUMO修飾また、細胞内の多くのタンパク質のアミノ酸配列中にSIM(SUMO-interacting motif)と呼ばれるアミノ酸が含まれることがが明らかとなり、SIMを含むタンパク質はSUMO化したタンパク質と相互作用して、SUMO修飾に依存的な複合体の形成を制御することが明らかとなってきました。一般に細胞内のタンパク質はタンパク質同士が集合したり、会合したりすることで複合体を形成します。また、集合した複合体は分散もします。SUMOとSIMの相互作用はこうした動的な平衡状態をどちらか一方に傾かせることに役立つと考えられます。図に示すような複合体の形成に関わることでSUMO修飾は、遺伝子発現やタンパク質の局在・分配・品質管理に関わるさまざまな細胞応答の制御を行うと考えられています。そして、SUMO-SIMの制御破綻は高等動物において発生異常を呈し、老化に伴うがんや神経変性疾患とも深く関わることも報告されています。

研究室の研究テーマ

研究室の研究テーマ 研究室では、メンバーの多くが細胞の増殖・分化の制御、細胞記憶の維持の制御に関する研究を、特に核酸やタンパク質といった生体分子の修飾の変化の観点から解析しています。分子の修飾の中でも、SUMOによるタンパク質の修飾研究に力点を置いているメンバーが多く、この修飾に焦点を当てている点が研究室の大きな特色といえます。ただし、研究室では必ずしもSUMO修飾に対象を限定しているわけではなく、SUMO修飾以外にも、ユビキチン修飾やDNAのメチル化やその他多様な分子の修飾システムと細胞及び個体の機能制御に関する研究テーマをサポートしています。また、この研究室では、現象の理解だけにとどまらずタンパク質・染色体・ゲノム・エピゲノム・オルガネラ・細胞工学といった他分野・関連領域との連携研究も奨励しています。融合的な発想と、それに基づく研究の展開と応用能力の開発にも力を注いでいます。

具体的には、以下のような活動が研究室で行われています。

A: SUMO修飾とゲノムの複製、遺伝子の転写制御に関する研究 pdf
B: SUMO修飾とタンパク質輸送・局在化に関する研究 pdf
C: SUMO化とユビキチン化による細胞内タンパク質の機能制御 pdf
D:発生・分化におけるSUMO修飾とSUMOパラログの役割の研究 pdf
E: SUMOを用いた新規バイオコンジュゲート・ポリマーデザインと合成の研究 pdf
F: 低栄養状態に対する適応制御の研究 pdf
G: 衝撃エネルギーによる細胞応答と細胞機能の操作の研究 pdf